インタビュー・シリーズ
ーinterviewー

第1回対談:「絶えざる先端的技術開発をベースにした営業を持たぬ経営」
清川メッキ工業株式会社 代表取締役社長 清川 肇 氏

インタビュー・シリーズ第1回 清川メッキ工業株式会社

岩田会長(以下、岩田):
 この度は新鋭経営会社長インタビュー・シリーズの第1回にご登場いただきまして誠にありがとうございます。このシリーズは主に2つの視点からお話いただければと思っております。ひとつは企業経営に対する考え方、もうひとつは経営者あるいはリーダの方の人間像の面からの考え方や想いです。まずはひとつ目の自社の経営に関するご意見をお伺いさせてください。

 清川社長が率いる「清川メッキ工業(株)」は、高品質なナノめっき技術をコアとして、電子機器・情報端末、自動車、医療の3分野で着実な成長を遂げてこられたと伺っています。その成果は、「ものづくり日本大賞:特別賞」「第5回日本でいちばん大切にしたい会社大賞、中小企業長官賞」「おもてなし経営企業撰」など、多種類の表彰として社会に認知されてきました。このような成果を生み出した背景には経営者として大変なご苦労や、絶え間ない思考や配慮、決断が反復されてきたものと想像いたします。

 過去から現在というよりは、現在に焦点に当てて、成果を生み出した企業の「経営理念(ミッションや行動指針)」のポイントについてご紹介くださいませんか。

 

インタビュー・シリーズ第1回 清川メッキ工業株式会社 清川社長

清川社長(以下、社長):
 経営理念は「自由なる創意の結果が、大いなる未来を拓く」です。これは創業者の会長がつくりました。創意工夫で世の中に貢献したいという中身ですが、創意という文字の意味を7年前に社長に就任した時に調べたところ、「人の真似をしない」という項目が書いてありました。会長の性格からも人の真似をしたくない、人に頼らない、コンサルティングも嫌いで、外部の人をほとんど入れたことがないなど、自分で考えてやることが会社の中心の考え方にあると思っています。

 また、依頼された仕事を断らない、とりあえずやってみるということを大事にしています。どんな仕事も断らないというのは、できないと言わないということで、まずやってみるという姿勢が会社の根幹にあると思います。

 

岩田:
 今のお話は、企業の持っている一種の文化のようなものを反映している表現として聞かせていただきました。人真似をしない、人に頼らない、人にできないと言わない。こういったところに独自性を持っていらっしゃる。このような独自性を現実に経営に反映していく時の基本的な態度には、徹底的に粘る、出来上がるまでは粘り切るというようなことが感じられます。非常に特徴的な理念を持っていらっしゃると思います。

 企業の業績は増収増益増員と順調な足取りをたどっておられるようですが、「業績向上、成長」の背景にある基本的な考え方・実現への基本理念については如何でしょう。順調に進んできていらっしゃる背景には非常に深いものを感じます。それを実現されてきた基本的な考え方や、実現していくために大事にしていらっしゃる理念やノウハウ、知恵をお聞かせください。

 

インタビュー・シリーズ第1回 清川メッキ工業株式会社 対談

社長:
 ノウハウと言えるかはわかりませんが、私は25年程前に会社に帰ってきましたが、その頃から当社には営業部隊がありません。売り込みをしたことがなく、会社としては営業をしたことが無い会社です。売り上げ目標も立てたことがありません。また、同業者から仕事を盗らないという方針があります。この3つは当社独自かもしれません。

 他の業界の方からは、よく変わっていると言われますが、めっきの業界では同業者は敵ではなく仲間なので、値段で競争しても仕方がないと考えています。だいたい営業をすると、お客様のところで同業者のやっているめっきを出されてもっと安い値段で頼むと言われてしまう。その値段で仕事をとると、同業者に恨まれてしまうし、また値段で取り返されて、結局値段の競争が繰り返されてしまいます。最後には値段だけの話になってしまい我々としても良いことがありません。営業しても仕方ない、恨まれてしまってもしょうがない、という考え方で営業活動をせずに仕事を増やしてきました。

 売り上げ目標に関しても、メーカであれば自分の商品を世界中に売ろうと頑張れますが、我々は加工業なのでお客様が先にいて、お客様が営業をしてとってきた仕事に対して加工をする。そのため、なかなか数値目標が立てにくい、待っている仕事になってしまうところがあります。お客様が他のめっき業者に仕事を出してしまう恐れはありますが、それがなければ営業をしてもしょうがない、目標が立てにくいというのが現状です。

 

岩田:
 非常に特色があるところですね。営業が無いと言いますが、新規は別にして、間接的にはお付き合いしているお客様からの発注を受けて、その結果として増収増益につながっているということですね。

 

インタビュー・シリーズ第1回 大阪大学・神戸大学 名誉教授 会長 岩田 一明

社長:
 当社のお客様は、大手の電子部品関係の所が多く、ほとんどが社内にめっきをする部隊を抱えていらっしゃる。このようなお客様から仕事をいただくと、「自社で出来るようになったらあなたのところには発注しない」とよく言われます。お客様以上の技術を持っていないといけないし、お客様より安く、品質も良くないと仕事が来ない。全てお客様より上回っていないと絶対に仕事が来ないという状況で仕事をしています。

 お客様にとっては全ての工程の中でのめっき部門ですが、当社はめっきだけが専門なので、めっきに関してはお客様に勝たないと仕事をいただけません。しかし、社内にめっき部隊のあるお客様は、めっきのことをよく知っているので、付加価値も認めていただける。めっきをやっていらっしゃらないメーカさんは、なぜこんなに高いのだなどと満足度が低くなってしまうなど、めっきに詳しいお客様の方が満足度は高いことが多いです。

 

岩田:
 非常に興味深いです。営業部隊を持っていない、売り上げ目標を立てたことがない、同業者とは競争しない。その辺りの基本的な考え方は、数年先の近い間では変更がない、変更しなくてもやっていけると考えてよろしいのでしょうか。

 

社長:
 自社商品を持ってメーカになるのなら、売り上げ目標を立てるでしょうが、加工業の段階ではないと思います。予算もなく、その都度判断しています。

 

岩田:
 今のような基本方針の中で成長していらっしゃる一番の根幹には、優れた技術を持っている、絶え間なく技術開発を続けている、お客様が持っている技術よりも欲しいなと感じていただける技術を持ち続けることがポイントのひとつのように感じます。技術開発を進める際に、優位性のある技術開発を進めていくためのポイントやお考えはなんでしょうか。

 

インタビュー・シリーズ第1回 清川メッキ工業株式会社 清川社長

社長:
 先ほど営業が無いと言いましたが、営業ツールはあります。それはホームページと展示会です。半導体、電子部品、医療系などさまざまな業界の展示会に年間4回ほど出展しています。展示会への参加は、仕事を取りに行くためではなく情報収集が目的です。技術の人間ではなく、製造部の人間を立たせたりします。「仕事は取りに行かなくて良いので、世の中のニーズを聞いてこい、テーマをもらってこい」と業界の困りごとやそのネタを仕入れてくるよう話します。
 例えば医療展に出したとします。あるA社さんの困りごとに対して、別のライバルメーカのB社も同じように困っている、さらにもう一社C社も困っているとしたら、それは確実にその業界が困っているということです。その時点で解決策が無いとしたら、それはテーマになる。1年後にその解決策を提示できれば、それが仕事になる。展示会はそういう位置付けです。
 ホームページはものにした技術、得意な技術をアピールしています。アピールした技術に対して依頼がくるので、すんなり仕事につながりやすくなります。
 めっきには色々な種類があります。ニッケルめっきひとつ取っても、医療や食品機器、建材メーカなど様々な業界で使われています。同じニッケルめっきですが、業界によって素材が違う、その素材はどんどん新しく開発されていきます。さらにめっきに求める特性が違うので、評価方法も違う。素材が違うと前処理も変わるし、特性が違うのでメーカさんごとにアレンジが変わってくる。しかし、当社はめっきのコア技術を保有していますのでどこにでも対応できます。
 例えば、医療系で開発した技術に、撥水めっき皮膜があります。これは汚れが付きにくい。この技術をホームページで公開すると、別の業界さんが面白いと使ってくれることがあります。そういう意味で、色々な業界とお付き合いを通じて提案力や技術的な引き出しが増え、お困りのことや問い合わせに対して提案ができるようになる。それが提案力につながっていると思います。依頼された仕事を断らないのは、色々な業界から情報を収集したいという意図もあります。諦めなければ常に新しいことを生み出していけます。

 

岩田:
 展示会などを通して様々な世の中のニーズを吸収されてきていらっしゃいますが、ニーズというのは展示会等でかなり明確に出てくるものなのでしょうか。

 

社長:
 それは立っている人間の技量によります。技量があれば引き出せますが、問題意識を持っていないと引き出せません。お客様も気づいていないこともあります。ですので、そこは教育の場でもあります。製造現場ではなかなかお客様と話す機会がありませんが、展示会に立つと自分の技量の差に気づき、そこから勉強しようと思うようになる。社員教育の場でもあります。

 

岩田:
 技術開発のニーズを吸収する意味では、技術開発課題というものは毎回展示会を通して継続的に出てくる状況にあるものでしょうか。

 

社長:
 技術開発課題が出来ても、それが大きな量産化に結びつくことはまれなことです。当社では必ず試作費をお客様からもらって研究します。自分で独自にというのもありますが、展示会ではまず引き合いをもらって試作をします。それでテーマをつくります。特に大きいメーカさんだと、すぐに出来る仕事は無く早くて3年、長いと10年かかります。それだけ体力があるお客様と研究すると、ニーズがものにできるようになる。そのニーズがもしもうまくいかなかったとしても、シーズが残ります。技術のコアだけつくれることがあります。
 ひとつの例として、電池メーカさんと紛体へのめっきを10年かけて開発しました。しかし、世の中はリチウム電池に変わってしまい、粉体のめっきはいらないと言われてしまいました。それを展示会に出したところ、異業種の違う分野での別の仕事につながり、粉体にめっきするというシーズをつくることができた。こういったことも多々あります。

 

岩田:
 今のお話は非常に多くの循環の中で、ニーズを発見する、時にはシーズにまで遡る、お客様の商品に結びつくような新しいめっきのビジネスになるような技術につながっていくというお話だと思います。その時には、社内でも非常に多くの情報が行き交っていると思いますが、企業の知恵として体系的に整理して、時間とともに変化をさせていくような枠組み、具体的に言えば一種のデータベースのような形や思考過程はかなり整理をされてきているのでしょうか。

 

インタビュー・シリーズ第1回 清川メッキ工業株式会社 清川社長

社長:
 最初、私は大手半導体メーカに勤めて研究していました。当時、既にそういったレポートや仕組みを経験していたので当社にも取り入れようと試みましたが、紙に残しても人には残らない。結局、過去のものに縛られて新しい発想が出にくくなってしまいます。そのため、当社ではあまり頼っていません。結局、ひと、人間の心に残る、経験値が全てです。それを紙に体系化したり、レポートすることはありますが、それを読めばできるというものではありません。エベレストの登り方を本で読んでも誰でも登れるわけではない、それと同じです。

 

岩田:
 ひとの経験や知恵が時代とともに変化をしていく流れの中でというお話で非常によくわかりました。人と人との情報交換や、あるニーズに対して一緒に討議をする中で知恵を生み出していくような交流、関係性を持ってチャレンジをしていく仕組みは出来上がっているのでしょうか。

 

社長:
 部署ごとに3人ぐらいのチームになっています。ひとりで考えているだけではアイディアは出にくいので、3人くらいをひとつの単位でやっています。

 

岩田:
 ニーズがわかった時にそれをどう解決するか。その時には、企業の持っている知恵も大事でしょうし、時には基礎的な研究をやっているような国内外の大学や研究所が持っているシーズを取り込んだ方がより効果的である場合もあると思います。最近よく言われるようなオープンイノベーションなどを考慮することも必要だろうと思います。清川メッキとして、外とのつながりはどのようにお考えでしょうか。

 

社長:
 めっきの大家の先生もいらっしゃりお付き合いをしていますが、私自身がめっきについて他の人に質問することはありません。先生にも、めっきについて質問することは絶対ありませんし、頼ることもありませんとお伝えしています。社員も先生にあまり近づけません。それでもお付き合いをさせていただき研究費を出しています。
 というのも、めっきについては人に聞きたくない、社内で考えてやりたいという思いがあります。聞けば答えていただけるでしょうが、それでは社員が考えなくなってしまう。自分で調べるか考えるかで常にやってきました。大学の先生とは、他の技術コアと融合させるためにお付き合いしています。今、地元の福井大学では、電池の先生とお付き合いしています。私は、福井大学の電池の講座でドクターをとりました。先生は電池に詳しい、私はめっきに詳しい、その融合です。私がめっきしたものを先生が評価します。

 

岩田:
 まさに異分野融合ですね。

 

インタビュー・シリーズ第1回 清川メッキ工業株式会社 清川社長

社長:
 はい。その先生はフッ素を使った電池を研究されていて、フッ素にも詳しい方だったので、世界中のフッ素素材を手に入れて非売品の色々な材料を使って皮膜を開発しました。それが、現在の医療業界での仕事や、様々な分野に広がっています。我々が知らない分野への融合ということで、大学の先生とはお付き合いをさせていただいています。

 

岩田:
 非常に面白いですね。技術開発に対しての企業が持っているひとつのポリシーのようなもの、遺伝子的なものが流れている感じがしますね。そのように事業を見出して、結果としてずっと成長している過程ですが、これからも企業が成長し生き延び生存していくために、社長が今頭の中に一種の戦略的なこととして考えていらっしゃることはありますでしょうか。

 

社長:
 経営者としてはよくないですが、私は拡大路線を目指していません。会社を大きくしたくない、うちの会長も同じ思いでした。昔、会長は従業員を50人以上増やしたくないと新聞で答えていたことがあります。長寿企業ほど大きくしていない、小さい企業ほどずっと続く。そういう意味では今年で当社は53年ですが、目標としては100年企業、ずっと続く会社にしたい。そのためには大きくするのは良くないと考えています。今の規模を、大きくするとしても微増、従業員も少しずつ増やしていく形でしょう。急激な拡大をすると人が追いつかない、不良を招く一番の原因は急激な拡大であるので、大きくしたくないと考えています。

 

岩田:
 大きくしたくないというところの、大きいというのをどう考えるかということがありますが、今、従業員はかつての50名よりははるかに多いですよね。

 

社長:
 去年の暮れから今年にかけて新しい半導体の事業が急激に立ち上がって、そこで一気に人を増やしました。来年度は4月に13人また新卒が入ってきます。今までは272名ほどで、300名を越えたくないと考えていましたが、4月には300名を越える予定です。好ましくないと思っている感じです。

 

岩田:
 いやいや、ありがとうございます。急速な変化ということではなくて、着実に成長していくということですよね。

 

社長:
 新しい柱が急激に拡大しました。他の部隊は微増なので、まあ仕方ないと考えています。確かにリスク回避の観点でいうと、たくさん仕事の柱をつくらないと、同じ業界ばかりの仕事では一度こけるとみんなこけてしまうのでそれは怖いと感じています。

 

岩田:
 そういう面では、実際の仕事はめっきだけれども、もう少し広く共通的に言えば、何かをくっつける、接着をさせると捉えられる。そう考えると、接着の方法にも色々な方法がありますよね。自分のところは、その中のこことここ、今はここをやっているというストーリーがありますね。

 

インタビュー・シリーズ第1回 大阪大学・神戸大学 名誉教授 会長 岩田 一明

社長:
 はい、あります。ひとつの例で言うと、パワーデバイスを開発するのに14年かかりました。その仕事をするのには、布石があって、今から25年前に携帯やゲーム機向けに、プリント基板に接合でニッケル金めっきの開発、量産を始めました。その後、6~7年経って、電子部品のセラミック基板向けにニッケルめっきを開発しました。これは、当初お客様が自分でめっきしようとしたけれども、セラミック基板は酸やアルカリに弱いため溶けてしまう、そこで当社がオール中性プロセスを世界で初めて開発しました。それがLTCC(低温同時焼成セラミックス基板)です。普通セラミックスはアルミなど1300度くらいで焼くと電極はモリブデンやタングステンしか使えなかったのですが、お客様が、900度くらいで焼けるような低焼結型のセラミックスを開発しました。そうすると、電極に銀や銅が使えるようになります。金属が安くなるのでコストが下がるのですが、めっきすると機材が溶けてしまうということで当社に依頼がきました。オール中性で、世の中で初めてめっきができたので新しい製品を世に出すことができた。そういう進化がありました。
 次に来たのが半導体のウエハです。これは、ディスクリート品といって、今まではハンダのコーティングなどで対応していた技術ですが、携帯電話がどんどん小型化すると、ごく少しだけ、それも小さな平面ではんだ付けするためには、ニッケル金めっきが必要でした。当初は携帯や家電商品の量産が主流で、車関係は試作のみでした。車載用の要素開発は14年の歳月を要し、去年パワーデバイスの量産につながりました。これは、バッテリーのモータを回す時の直流を交流に変える半導体です。車の安全性の根幹に関わる部品ですが、この開発もプリント盤から布石でつながりました。やはり、前座みたいな仕事がたくさんないと、メインの仕事は来ないということかなと思います。
 現在は、プリント基板はサーバ用の高級品の基盤しか生産していません。LTCC基板は、海外にいってしまいました。過去のものはどんどん去っていて、新しい技術に代わっていっています。次に狙っているのは、電車、発電所などのパワーデバイスです。

 

岩田:
 次に、二つ目の視点として、社長の個人や人間的な面のお話を聞かせてください。最近経験された嬉しいことや、心がときめいたこと、感動したことで記憶に残っていらっしゃること。社内のことでも社外のことでも結構ですのでお話いただけないでしょうか。

 

社長:
 そうですね。昔はたくさんありました。昔はクレームがたくさんあって、クレームがあるとその原因を究明して、それを直した時にすごく感動を覚えました。そんなことが日々あって、充実していました。でも、社長になるとそういったことは無くなってきました。また最近、当社はクレームが無いので、うちの社員もかわいそうだなと思っているくらいです。
 感動まではなかなか無いですね。以前は、海外視察などで新しいものを見ると感動がありましたが、最近はそれも無くなってきました。知らないことが無くなっています。みんな知っている、見たことがあることばかりになってしまって、知らないことが無い限りは感動はなかなか無いですよね。

 

岩田:
 なるほど。

 

社長:
 技術的なことは、感動することがあまり無いんです。クレームも無いので、なかなか良くないなと思いますね。反対に社長になってからは、責任や全体に関わる話になります。最近は辞める社員が少なくなりましたが、辞める社員が出ることが一番悲しいです。悲しい話のほうが出来ます。感動することはたぶんあるのでしょうけど、感動と思っていないのかもしれません。

 

岩田:
 多くの経験をなさったことによって、感動のレベルが上がってしまっているのかもしれないですね。それでは、言葉として適切かどうかわかりませんが、人生観や人生哲学、座右の銘などはお持ちでいらっしゃいますでしょうか。

 

社長:
 座右の銘ですか。毎年年度方針で、その年の方針を考えます。去年は、「事前の1策は事後の100策に勝る」を掲げました。これは、問題が起きたら100個のことをしなければいけない。根本的な1個を押さえることによっぽどの価値があるということです。これを掲げたきっかけは、ちょうど一昨年にタカタさんのエアバックの話がありました。人の命に関わる重要な話ですが、よくよくあの話を聞いてみると、根本的には分からないと書いてあるものの、火薬の原材料自体が水分を含むと爆発してしまう、水分が原因であり、火薬の原材料を変えればいいのではないかと思うんですね。メキシコで組み立てた製品は、湿度管理していなかったとか、色々なトラブルがあったようですが、その火薬さえ使わなければ爆発は起きないんですよね。実際、他の会社さんはその火薬を使っていません。その火薬を使わないことが根本的な対策になるはずですが、昔アジ化ナトリウムを使っていて、体に悪いというので、まっさきに現在の火薬を開発して特許を出して市場を席捲した経緯があった。後から悪いと分かっても、なかなか変えられなかったようです。私が言いたかった本当の意味は、うちの会社でもそういった事前の策がたくさんあるはずであるということです。しかし、それを誰も認めていない。問題が起きないから誰も分からない。本当はそれを見つけることを誉めたたえなければいけないのであり、それを探せということで年度方針にしました。
 また、今年は「速さは信頼」を掲げました。孔子の言葉に、拙速は巧遅に勝るというものがあります。100点満点と自分が思っている提案を納期ぎりぎりに持っていくよりは、相手も100点と思ってくれないと意味が無いですし、それよりは60点のものを早く持って行って、お客様にこれはあかんと言われながら、少しずつ意見をいただき、納期の時に100点のものを持っていくことが大事です。しかしこの言葉だとなかなか社員に伝わりづらい。もっと砕いて分かりやすい表現をということで、速さは信頼という言葉にしました。

 

岩田:
 その言葉は開発思想にも繋がる感じですね。

 

社長:
 年度方針は、会長の頃から掲げていました。私が社長になって、会長から引き継いだ仕事が2つだけあります。ひとつは、この年度方針。もうひとつは、銀行への対応です。

 

岩田:
 そういう中で、ご自分でこれは自分の心をうまいこと反映して言えている言葉だなというような、自分なりの言葉などというものはありますか。たくさんこれまで考えていらっしゃったと思いますが。

 

社長:
 なんでしょうか。今年の「速さは信頼」はそうですかね。

 

インタビュー・シリーズ第1回 清川メッキ工業株式会社

岩田:
 なるほど、よくわかりました。
 社長として他の企業などをご覧になった時などに、あの社長は非常によく考えていらっしゃるな、よくやっていらっしゃるなどと感じられることも少なからずあるかと思いますが、社長が社長を見るという時にどういうポイントで見るのでしょうか、人を見る視点などはありますか。

 

社長:
 社員さんでしょうか。社員さんを見て、イキイキ働いておられると、社長さんすごいなと思います。

 

岩田:
 企業訪問などで、社員の方の姿を見て態度や目などをご覧になってということでしょうか。

 

社長:
 そうですね。あとは、社員さんと話をしてみて。良い会社だなと感じます。

 

岩田:
 同感です。それでは少し視点を変えて。
 これから若い方、例えば学生の方で将来事業をやってみよう、経営者になってみようという方がこれから増えればいいなと思いますが、そういう人たちに対してこのようなものの考え方や、自分自身を律する気持ちで、など先輩の社長としてアドバイスやメッセージをいただけますでしょうか。

 

社長:
 これは、自分の会社の社員にも言うのですが根拠のない自信を持ってほしいなと思います。これは、何度も何度も失敗すると、後にはいつかは成功しますよね、ぽつっと成功します。次にまた、失敗を繰り返し相当苦労しながら、でも諦めずにやればいつか成功する。これを何回か繰り返し続けると、難しい仕事の依頼が来ても、前もあんなに苦労して、最後は出来たから、今度も成功するのではないかと前向きに考えますよね。出来ない仕事かもしれませんが。でも、出来ないと思っているとやはり出来ないんです。出来るかもしれないなと思うことで、出来る確率が高まると思います。そういう根拠のない自信が持てるくらいまで、失敗して、少しずつ成功体験を続けた人間、そういう人間がたぶん経営者になっても成功するんだと思います。

 

インタビュー・シリーズ第1回 大阪大学・神戸大学 名誉教授 会長 岩田 一明

岩田:
 なるほど。

 

社長:
 だって諦めないですから。出来ると思ってるんですから。出来ないと思った瞬間に、たぶんそれは終わってしまう話だと思いますので。

 

岩田:
 そうすると、どんな困難な問題だと一見思われるようなことでも、出来ないとは思わないと。

 

社長:
 そうですね。

 

岩田:
 たとえそれが、その時うまくいかなくてもポジティブに考える。これは自分が良い経験をしたのだと。次に、そのことを心の中で成熟させ、またそれをポジティブにうまく利用しながら次へのチャレンジにつなげていく。そういった心の持ち方ですかね。

 

社長:
 そうですね。うちの技術開発でも、諦めずにずっと研究しています。うちは諦めませんが、結局お客様が諦めるということがあります。1年やって目標までいかないと、お客様が諦めてしまう。うちは諦めずにまだいけると思っているのですが。諦めると、そこで研究は止まりますが、不思議と3年4年と時間が経つと、別のメーカから同じようなテーマの依頼が来るんです。そうすると途中から始められますので、他社よりもはやく、さらに別の違う技術が積み重なって、その足し算で新しい技術が出来たりします。それも色々なテーマをやっていますので、それが他の手法を身に着けることにつながっているということもあります。時代が早すぎるというテーマも結構多いんです。諦めなかったら出来たという仕事もかなりありますが、やはり、そんなに長くはできないんですね。

 

岩田:
 やればできる、出来なくても諦めるなという心を持ち続けなさいと。

 

社長:
 そうです。我々はやりたい、研究したいテーマがあってもお客様から仕事が来ないと研究しないのですが。それでもどうしてもやりたいテーマは補助金をもらいます。補助金のテーマにして自分たちで研究をやって、またお客様から話が来たら、と途切れずに技術レベルを向上させる、ということをしています。補助金はそのように使っています。

 

岩田:
 なるほど。人を育てるという面でも、今のお話は経営者の方でも、研究者でも、他のことでも伸びていこうという人には共通するお話ですね。
 最後に、最近各企業には地域への貢献や地域創成などが言われますね。地域で頑張っていらっしゃる企業の経営者として、地域貢献や地域創成への想いをお聞かせください。

 

社長:
 そうですね。地域貢献というのは一企業が頑張ってもできることではないですし、団体活動などでしょうか。私がやっているのは経済同友ですとかライオンズクラブ、商工会議所など。福井のほとんどの団体に加盟して色々な活動をしています。そういう活動を通じて、お話をしながら、活動しながら、お金を出しながらやるということでしょうか。多岐に渡ることもあるので、一社では難しいのではないでしょうか。地域のサッカー、野球、国体にいたるまのあらゆる分野、全部に手を出すと大変なことになりますが、うちは全てに手を出しています。来るもの拒まずでやってしまっているので、やりすぎだなと思う時もあります。

 

インタビュー・シリーズ第1回 清川メッキ工業株式会社

岩田:
 そうですか。
 最後になりますが、我々新鋭経営会という経営者が元気で年齢も比較的お若い方々の会ですが、本会へのご要望や期待やコメント、アドバイスなどいただけますでしょうか。

 

社長:
 参加されている方々には、自分が持っていないものを持っていらっしゃる人のお話が聞けるという事があります。刺激が無いとお話しましたが、そこでいうと、新鋭経営会は今私にとって一番刺激がある会ですね。同業者は見慣れてしまっているんです。見学など、企業見学も刺激があります。異業種もたくさん見ていますが、この会の企業さんは光る技術をたくさんお持ちなので。刺激があって非常にうれしいところです。

 

岩田:
 長時間にわたって、ありがとうございました。これからも益々のご発展をお祈りしています。

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