インタビュー・シリーズ
ーinterviewー

第2回対談:「社会に希求される事業、水中ポンプの深化による堅実な成長」
株式会社鶴見製作所 代表取締役社長 辻本 治 氏

岩田会長(以下、岩田):

 今回は第2回として、新鋭経営会創設以来、4年間にわたり、副会長を務められました「(株)鶴見製作所の辻本社長」に登場していただきます。
 辻本社長が率いる「(株)鶴見製作所」は、水中ポンプから汚水処理システムまでの事業を幅広く展開され、国内はもとより中国、台湾にも工場を設置して着実な成長を遂げ、昨年は企業創設以来の売上高や営業利益、また純利益をあげられたと伺っています。すでに社長として18年の実績を積み上げられ、経験を重ねておられます。これまで多くの意思決定の場面において深い思考を反復されてこられたのではないでしょうか。
 まずは、社長として就任されて以来、今日までを振り返っていただきながら、経営理念や行動指針、また、次の時代に向けての視点を含めながら、社長としての想いを語っていただけませんか。

 

インタビュー・シリーズ第2回 株式会社鶴見製作所 辻本社長

辻本社長(以下、社長):
 18年というのは長い年月でありますが、振り返ると短いものでありました。ポンプというのは、人の目につくところに存在するというものではありません。特に私どもの水中ポンプは、水の中に入ってしまって目に見えないものです。基本的に人々の生活をお守りするものであるという考え方から、ポンプを通じて社会に貢献していくのだという強い思いを持って、またそれを誇りにさせてもらっています。
 私どもは土木や汚水ポンプを扱っています。例えば大雨が降って浸水してしまう地域においては、私どものポンプをご採用いただいて人々が安心して生活していただけるように。また汚水を垂れ流して川を汚してしまうのではなく、ポンプを使ってきちんと処理場まで送って環境の美化に貢献するという役割です。以前、武庫川の噴水用にポンプを納めさせていただいたことがあります。高さ30mほどの噴水なのですが、その完成式典では花火も打ち上げられ8万人の方が見に来られました。その時に、あ、当社はこのようなアミューズメントの場面でも貢献できるのだなと感動を覚えました。
 創業してから92年になりますが、水中ポンプを核にした企業経営ということで、とにかくポンプ一筋で本業に徹してやってきました。それ以外にもシステム機器などを扱っていますが、ポンプの競争や商売を有利にするため、手助けをするようなものだけとシナジーの有るものだけに絞って、ポンプから逸脱しない商売をさせていただいています。

 

岩田:
 創業以来92年間、ポンプ一筋で事業継承。よくわかりました。この基本理念は今後もぶれることなく貫いていかれるということでしょうか。

 

インタビュー・シリーズ第2回 株式会社鶴見製作所 辻本社長

社長:
 まだまだ私どもは出来ていないところがたくさんあります。それをやりきったというところまでやっていきたい。たぶん一生来ないと思いますが、そこまでやっていきたい。ポンプのリーディングカンパニーになるのだという合言葉を持ってやっていきたいと思っています。
 当社は、祖父が創業し、父が2代目、わたしが3代目の直系でずっときています。私が物心ついたときから、父親から継げよと洗脳されて育ちました。工場と家が隣接していましたので、工場で作業の手伝いをするなど若い頃からポンプにどっぷり浸かった生活をしておりました。やはりポンプというものが私個人としてもすごく好きなのだなと思います。

 

岩田:
 ポンプという事業もポンプ単体の場合、ポンプを中核とした水処理システムの場合など、多様な事業展開の考え方があろうかと思います。ビジネスからみてそれぞれは長所短所をもっている感じがします。事業の間合いの取り方について社長はどのように考えておられますか。

 

社長:
 以前、30年近く前にポンプだけではダメだろうということで、ポンプの延長線上で水処理に取り組んだことがありました。東大の先生にもお助けいただき、非常に優秀な性能の水処理装置を、全国10箇所に納入させてもらったのですが、ただ、そうなりますと私どものお客様の領域に踏み込んでしまう。水処理プラントメーカさんが、ツルミは競合だ、競合だから買わないとなってしまうことになります。事業を広げる時には、非常に慎重にやらなければいけないなと思いました。当時の部長陣に、これはツルミ全体で考えるとマイナスの事業である、撤退したいということを伝えて説得しました。残念ながら、何人かの技術者がツルミを離れてしまったこともありました。

 

インタビュー・シリーズ第2回 株式会社鶴見製作所 辻本社長

岩田:
 事業範囲の決定では波及効果を広範囲、俯瞰的に把握することが肝要だと。場合によっては人材を失うことも念頭においておかねばならない、厳しい問題ですね。
 他方で、経営者として嬉しい、感動やときめきなども経験されているのではないでしょうか。思い出として頭に残っていることがあればご紹介ください。

 

社長:
 小学校4年生の頃に、なぜ私はツルミポンプの社長しか将来がないのだ。友達はプロ野球選手や宇宙飛行士などと夢を持っているのに。と言ったことがあります。当時高校生だった6歳上の姉に話をしたところ、「中間の部長や課長でやっていたら、自分がこうと思っても、なかなか上の方がそうだと思って賛同を得られないとその方向に進めない。社長は、自分の描いたキャンパスで描いた通りに物事を進められるものだ。」と言ってくれました。その時に、そうかそんな面白いことがあるのかと疑問が解消されました。
 現在は、幼い頃の疑問と同じようにこうしていきたいなというように発想しています。色々な部門に指示させていただいて、それが成功した時に非常に喜びを感じます。
 私の経営の目標は、初代の祖父であり、2代目の父なんです。世の中でもよく言われることですが、3代目は潰すと子供の頃からずっと言われていましたので、それは絶対にしたくない。祖父や父に負けない企業体系をつくっていきたいと常々思っています。ライバルは親父なんです。親父が継いだ時は19人、わたしが継いだ時は820人の会社でした。親父が土台をつくったということになります。それを少し方向も変えながら、今の形に変えられたことには非常に喜びを感じています。

 

岩田:
 喜びのお話、非常によくわかりましたが、その裏にはご苦労にも直面されてこられたかと想像します。社長として解決が困難な、本当に苦しいなと思われたご経験、解決への対処法など、心に残ることはありますか。

 

社長:
 苦しむ時は苦しむのですが、それで寝られなくなるというようなことは無いんです。八方塞がりと言いますが、それは八方しか見ていないからいけないのではないか。16方見たら解決の糸口があるかもしれない。それでだめなら32方見たらいいじゃないかということで、絶対に何らかの解決策があると考えています。また、どんなことでも誠意を持って正攻法でやっていけば、解決できないというようなことは無いと思います。そういう形でやってきて、今までそんなに大きな問題はありませんでした。
 2年前に残念だと思ったことがあったのは、従業員から始業時間に関して訴訟がありました。慣習ということで8時55分からラジオ体操をして、朝礼をして、そのあと9時過ぎから始業という形態に対して、ひとりの従業員からそれは労働時間ではないのかと指摘があり、残念ながら裁判になってしまいましたが、正攻法で真っ向から対応したという経験があります。

 

岩田:
 そんなご経験があったのですか。事業面ではいかがでしょうか。例えば、M&Aの圧力がかかってきたとか、知財訴訟とか、販売圧力とか、といったことはありましたでしょうか。

 

社長:
 買い進められたことがありました。色々と対策しようとしたり、悩みましたが、最後私が彼らに言ったのは、あなたのところが買い進めたって上手くはいきませんよ。私を含め役員の行いがあるから、ポンプを買うならツルミで買ってあげようとなっている。素晴らしい技術がある会社じゃないです。うちは、人と人のつながりで商売しているんですとアメリカ人の方に説明しました。また、どうしても買うなら買ったらいいじゃないか、殺されるわけではないですし、持ち株が全部売れたら私は左うちわで。考えようによっては危機ではないことが多々あります。

 

岩田:
 そういうことがあったけれども、あまり苦労にはなっていないということですかね。

 

インタビュー・シリーズ第2回 株式会社鶴見製作所 辻本社長

社長:
 そうですね。前向きというか、あまりくよくよしないというのでしょうか。社長就任時のことです。6月26日の株主総会で社長に就任したのですが、6月18日に家ではしごから頭から真っ逆さまに落ちて気を失って救急車で運ばれ10日間入院しました。大事には至らなかったのですが、普通でしたらこんな大事な時に怪我をするなんて最悪だと思うのでしょうが、社長になったらきっとしんどいだろうからその前に休暇がもらえたのだと逆にやったと感じました。6月25日にようやく立てるようになって、病院から株主総会会場に出て行きました。そういう状況でも、ラッキーだなと思うような、くよくよしないところがあります。

 

岩田:
 基本的に楽観的なところがあるのでしょうか。

 

社長:
 そうですね。
 もうひとつ、社長になった年に売り上げが290億から250億に40億落ちました。親父の代が当時一生懸命やっていた建設機械の市場が急激に悪くなった時です。わたしは、それもラッキーだと思いました。というのは、親父のビジネスモデルが、もうだめだということを営業マンから生産から社員みんながわかってくれただろうと。当時私が主張していました、役所関係や違った市場にいこうという方針をようやく聞いてくれる環境になったという意味で、ラッキーだと捉えました。普通は、就任した年に40億も売り上げが落ちたらそうは思わないのでしょうが。

 

岩田:
 お父様が考えておられたビジネスモデルに対して、社長は先代がやっているだけでは十分ではない、変えていかなくてはいけないと考えておられたのですね。

 

社長:
 それは昔から思っていたんです。思っていたのですけれども、親父が社長をしていた頃はワンマンでがんとやっておりましたから、なかなか聞いてもらえなかったということもありましたし。

 

岩田:
 自分なりのビジネスモデルはいつごろから熟慮しはじめ、実行への心づもりはどのように考えておられたのでしょうか。

 

社長:
 社長になる2、3年前、30代の後半だったと思います。それをどうやって拡大していくか、製品群だけでなく生産システムも、販売のシステムもそうだということで、ずっとしたためていました。ことあるごとに社員皆に会社はこう変わっていくからと話していました。ただ当時は、親父の描いていたビジネスモデルにおいて十分それぞれの営業所が予算を達成できていましたので、そのような方針を聞かなくてもよかった。ただ、その親父のビジネスモデルがだめになってきて、これは新社長が言うことを聞かなければいけないなと初めてなったということで、ラッキーと捉えたんです。

 

インタビュー・シリーズ第2回 株式会社鶴見製作所 辻本社長

岩田:
 社長になられて売り上げが40億下がった、その時にビジネスモデルを切り替えるチャンスと判断した。

 

社長:
 そうです。それを強行に言いました。当時、他の建設関係のメーカは3年くらい赤字でしたが、私どもは別のところに行こうという戦略がありましたので、V字回復とまではいきませんでしたが、いったんへこんだ後、業績を急回復させ、非常に不況に強い会社であるという評判にはなりました。

 

岩田:
 不況に強いということで結果としてうまくいったと仰いましたが、ビジネスモデルを新しいものに切り替えていかれるときの社長の一番根本的な考え方のポイントは、どう理解したらよろしいでしょうか。

 

社長:
 その時は、ちょうど私が数年前から開発にだいぶ口を出していました。たとえ、この市場いけてないよね、この市場に行かんかいと言ったとしても、武器が無かったらいけませんよね。私どもは、独自商品を出すことによって営業マンが勇気を持っていけるという風に考えました。そういう商品として開発していたものが、社長交代と同時に発表できる環境になりました。

 

岩田:
 なるほど。独自商品を持とうというところが一番の基本。

 

社長:
 独自商品を持つということは、それはそのままは売れないかもしれません。ただ、お客様の設計の方、購買の方、営業の方がその話を聞いていただけますよね。そうすると、あ、面白いことするね。これは今はいらないけれども、ポンプではちょうどこういう機器があるから、ツルミさん見積りしてもらえませんか。と話のきっかけになります。

 

岩田:
 開発をする、新商品ができました、最終的には販売して事業としてつながる必要がありますよね。その時の、開発されてきた新商品はどのような形で認知されるようになるのでしょうか。

 

社長:
 ポンプというはひとつの種類ではなかなかだめでして、例えば、水処理施設では色々なポンプ、関連した商品のバリエーションを持たないといけません。私どもが開発した商品は、その一角だけなんです。その売り上げはそんなに大きくないのですが、それできっかけをつかんで入るということで、残りの8割9割の商品をもらえるようになってきたということです。

 

岩田:
 ビジネスとしてきっかけを与えているということになるわけですか。開発機器単体の利益は小さくても、システム全体としてはきちっとしたビジネスになる。顧客が希求している必需製品を独自に提供する、という発想ですね。

 

社長:
 はい。以前、新鋭経営会で汚泥脱水機について話をさせていただきましたが、汚泥脱水機もわれわれ独自のもので開発、特許をとらせてもらいました。脱水機1台1000万くらいする機械です。もちろんそれ自体も売りたいのですが、それをきっかけに、関連機器が私どもの手元に入ってくる。社内用語では導入商材です。

 

岩田:
 企業の業績が順調にきていらっしゃる。業績を上げる、瞬間的ではなく安定的な成長を実現させるための基本的な社長の考え方のポイントをお聞かせください。

 

社長:
 安定した業績のために汎用品を大事にしましょうということで、私どもの汎用品はまず小さな小型のポンプ、1台2万円くらいしかしないポンプです。これはよそを差別化するような商品ではなく、価格も性能もあまり変わらないようなものなのですが、年間でその商品を30万台60億円ほど販売させてもらっています。どんな状況になっても、そういった汎用品を忘れてはいけないと言っています。
 例えば、真空ポンプもやらせてもらっていますが、この前、韓国の原発で注文を受けたのは、1式で約5億円、ポンプ4台分でした。そんなものばっかりに走ってしまうと、汎用品がおろそかになるところがあります。確かに5億円のプロジェクトは、あれば派手ですが、原発の計画が無い、失注してしまったとなるとゼロになります。汎用品の60億の売り上げは、景気が悪くなって40億になることはあってもゼロになることはありません。ですから、汎用品は絶対忘れたらだめだということで、特に私どもの水中自社汎用をどれだけ売っているかを営業の評価基準ということにもさせてもらっています。予算に対してただ売り上げを上げればいいというのではなく、その営業所で汎用品をこれだけ売りなさいという基準をきっちり設けて、それが達成できないといくら売り上げを上げないと評価しませんよとしています。

 

岩田:
 汎用品の売り上げ基準を示しているのですね。中堅企業が成長されていく時に、景気の良し悪しに関わらず、確実にその企業が最小限の稼働を実現していくための手段を持っていなくてはいけない。場合によっては大手のOEMの仕事も必要ですよと言っていらっしゃる企業もありますが、この場合は小型汎用品というものが景気の良し悪しに関わらず安定的に企業を支えるベースになっているという考え方ですか。

 

社長:
 はい。先ほど言いましたように汎用品はよそとそんなに変わりませんし、それによって差別化なんてできません。汎用品だけつくっていたらそれでいいかというとそうではなくて、色々な真空ポンプや脱水機、大型ポンプなどそういったものと合わせた中で汎用品をベースに企業を経営しています。

 

岩田:
 その時に、国内をターゲットにした汎用品という考え方と、海外、主として中国や台湾をターゲットにした汎用品は同じようなものでしょうか。

 

社長:
 海外においても同じように売っていきたいと考えていますが、コピー商品が溢れかえっていますので、そういう意味では苦戦はしています。本来ならば、こういう技術がある、よそには絶対に負けない、こんな付加価値があるということを言っても、中国製品は3分の1だと言われると、デフレ圧力で私どもが値段を下げざるを得ない。また、違いが出しにくい。私どもの製品は長持ちしますよと言っても、店頭では同じ。なかなか選んでもらえないということで、値段は下がってきています。
 3年ほど前からチャレンジしているのは、中国および新興国ではコストオリエントの商品をつくろう、日本水準の品質を維持した商品でなくても、それなりに水が出てそれなりに長持ちしてコストが安ければ良いだろうということで、中国の杭州でつくっているポンプは基本的にローカル調達でコストを下げています。

 

岩田:
 どれくらいコストを下げれば競争優位が確保できましょうか。

 

社長:
 上海工場を1としたら、それのコンマ7、3割下がっています。それでようやく中国の市場で受け入れられるようになってきました。上海工場は国内より2割ほど安いので、杭州工場は国内工場よりも5割程度下がっていることになります。

 

岩田:
 なるほど。国内の半額くらいが目安なのですね。

 

社長:
 発売させてもらってから2年ほどになりますが、特に大きなクレームもございませんし、中国国内でも市場に受け入れられ好調に販売推移しています。それを武器に中国の市場のシェアを上げていく、もしくは、新興国、ミャンマー、ベトナム、インドネシアなど環境汚水処理に力を入れてこられる国々のシェアをもらえるようチャレンジしています。

 

岩田:
 コスト競争率が国内に対して半額くらいというときに、利益に対する考え方はいかがでしょうか。

 

インタビュー・シリーズ第2回 株式会社鶴見製作所 辻本社長

社長:
 利益はそんなには出ないです。3割4割もとれたら良いのでしょうが。

 

岩田:
 極端に言えば、利益は出なくても安定的にそういったものが提供できていくということ、生産する場の確保できているということが肝心と。

 

社長:
 損失を出してはだめですが、カンボジアやミャンマーは中国製品に席捲されています。中東も中国の製品で溢れかえっています。そういうところに対抗しようと思うと、そういう商品を開発して売っていくしかありません。
 国内の商品を売ろうとすると、値段が合わないということで、営業マンがしっぽをまいて帰ってくるのではあまりにもかわいそうなので、そういった商品を開発しています。今のところブランドは一緒ですが、シリーズ名称を変えて、廉価版として両刀使いで売らせて頂いています。

 

岩田:
 それが契機となって、次の商談に結びつく可能性もあるということですか。

 

社長:
 そうですね。
 いずれ、耐久性などが求められるようになってくるでしょうし、量をつくることによって、品質も安定しコストも下がるといった相乗効果も出てくるのではないかと思います。

 

岩田:
 中国やその周辺国では、国によって場所によって、日本の軟水と欧州の硬水の違いのように、水の質や汚水の状態に変化があるでしょうが、水中ポンプを考えるときには、そのあたりのファクターはあまり考える必要はありませんか。

 

社長:
 あまり関係ないですね。汚水は汚水、硬水軟水は汚水処理ではあまり関係ありません。ただ、ヨーロッパや日本では自国を守ろうということで守るべき規格があります。そのために製品の開発には非常に手間がかかります。日本では三相200ボルトですが、オーストラリアの鉱山向けでは1000ボルトの高圧がいります。大きなモーターが必要ですが、そんなに高圧なモーターは日本のモーターメーカーさんではつくってもらえません。そこで自前でつくっています。

 

岩田:
 次に、技術開発に対する企業としての基本的なお考え、例えば、こういう課題をまず優先的に選定しよう。課題があった時の取り組む社内の体制をどのように考えておくか。開発といっても100%うまくいくのではなく、ある時には失敗する。ある時は技術的にはうまくいったけれども商品としてうまくいかない。そのあたりの事業化と結びつけるための仕組みなど、技術開発に対するお考えを聞かせてください。

 

社長:
 ポンプは構造的には単純なものですが、効率、材質などの基本要素に加え、エレクトロニクスとの融合など様々な技術が必要になってきています。当社では、基本設計を担当する技術部、そして生産設計を担当する設計部など100名以上の技術者を配備して対応しています。
 国内外で開発課題が違うため、その課題選定には苦労しています。従来は、国内販売のものを若干マイナーチェンジして海外に投入する方法を取っていましたが、最近では海外売上比率も高まり、海外の独自商品の開発課題も多くなってきています。基本的にはツルミのブランドは国内外で浸透しており、その品質レベルの維持とコストの兼ね合いを十分行いながら進行しています。開発課題も多く全てのものを自前で推進することは難しく、OEM供給などをうまく組み合わせながら、集中と選択を行っています。
 また、別の視点では、ポンプから逸脱するのではなく、この市場ではこういう規格がないとだめだというような、その規格のためには既存の商品を若干モディファイする必要があります。その作業がものすごくあるような開発があります。あるいは、ライバルメーカがちょっと変わったものを開発したとして、例えばより高いところに上がる、大容量を送れるポンプなど、そういう場合はライバルメーカのちょっと上をいくような商品を開発するなど。ポンプに関わる開発課題は様々あります。それをグローバルで見ると何十もある。それを開発会議において、国内、国際それぞれの意見を聞き、市場はどこが大きいかを判断しています。
 具体的には、リニアで非常に大きなポンプで高いところまで水が上がるようなポンプの必要が出てきています。それを、私どもは今最優先課題としています。ゼネコンさんなどから、仕様を聞いて、特殊設計をして開発の最終段階になっています。

 

岩田:
 なるほど。今のリニアの例では、大容量というとどれくらいのレベルのものになるのでしょうか。

 

社長:
 1分間に10トン、揚程が70mぐらいだと思います。要は、リニアのトンネルをシールドマシンで掘った時に、異常出水がある可能性があるんです。シールドマシンが水没して駄目になる可能性がある。そのバックアップとしてポンプが必要です。ポンプはいくら高くても数百万円ですが、シールドマシンは高額で100億円くらいするわけです。100億円のシールドマシンを守るために、数百万円のポンプであれば数百台払ってもいいという考え方です。これを国内においては最重要課題と位置付けています。

 

インタビュー・シリーズ第2回 株式会社鶴見製作所 辻本社長

岩田:
 最重要課題と位置づける際の選定基準は、市場の大きさですか。

 

社長:
 市場の大きさと、リニアはそれだけ大きな市場ではないかもしれませんが、それがないと、それを持っておられるメーカにやられてしまって、そこで使用される一連のポンプ需要をとられてしまう可能性もあります。それだけあっちで買ってくださいとはなかなかいきません。

 

岩田:
 ライバルとの関係を含めて市場性を見られているのですね。

 

社長:
 はい。
 捨てるところは捨てるとしないと難しい問題はありますが。トンネル工事などは、水中ポンプの活躍の場ですから、そんなところでツルミが使われていないとメンツが立たない。市場の大きさ、話題性、メンツ、そういうことを絡めた中で、役員会レベルであれこれ決めないと仕方がないですね。

 

岩田:
 課題の設定においては、役員会で最終的に決められるのですね。

 

社長:
 はい。そうです。

 

岩田:
 開発に絡んで、他に興味深い事例はありましょうか。初期の目的とはかけ離れた予期せぬところで成果が出たとか、短期的には成果が出なかったのが、環境変化に伴って後になって注目されたとか。

 

社長:
 この用途で開発したというポンプに、何か他の用途はないかと開発した事例もあります。例えば、汚物ポンプといってトイレでペーパーなどが流れてきても詰まらないような構造をしたポンプがあります。これをある営業マンが、ゴルフ練習場に売り込みに行きました。ゴルフ練習場のボールがある会所に集まってくる、そこに水が入っています。ポンプでそれを上げてしまえば、ボールもきれいになるし、水も回収できるということで汚物ポンプがゴルフボール回収用のポンプになったこともありました。

 

岩田:
 なるほど。伺うと分かるような気がしますね。

 

社長:
 シールドマシンの工事で泥を吸い取るバキューマーを利用して、給食センターやホテルの厨房で残飯を集めるシステムに変えるなど、発想が非常に大事ですね。以前ご紹介した“おうちまもるくん”も、全く違う用途から若手の社員のアイディアで完成し、4月から発売の予定です。

 

岩田:
 今のお話は興味深い事例ですね。製品は社会に出て行くと、予期せぬ社会要因との関係の中で色々な使われ方をする。初期のスペックには出てこなかった中に含まれている潜在的な機能がある時にぽろっと出てくることが起こる。

 

社長:
 そうですね。それを営業マンが発想することもありますし、お客様がそのポンプを見られて違う発想をしてくださることもありますからね。

 

岩田:
 新しく生まれた知恵や知識みたいなものが会社に戻ってくるといいですね。

 

社長:
 はい。ですから、私どもは各出先に技術営業を置いています。違ったポンプの使い方や、面白いポンプの使い方をレポートするという役割もしています。

 

岩田:
 レポートされて戻ってきたものを社内の中でどう生かすか、そういった仕組みも出来上がっていますか。

 

社長:
 レポートは、営業推進部に集まってきます。彼らのフィルタをかけて、面白いものが執行役員会議に上がってきます。

 

岩田:
 ライバルメーカとの関係は非常に注目しておかなければいけないですが、国内、国際的に見た時に、ライバルメーカはだいたいわかっているものなのでしょうか。あるいは、どこかに隠れているのでしょうか。

 

インタビュー・シリーズ第2回 株式会社鶴見製作所 辻本社長

社長:
 中国やインドの企業は分かりにくいです。中国の大手の数社ぐらいは分かりますが、例えば売上高が40億くらいの規模だとあまり市場にも出てこないのでわかりにくいです。以前調査したところ、中国には小さいものから大きいものまで含めてポンプメーカが3000社ぐらいありました。国内ではポンプをつくっておられるのは200社ぐらいです。ただし、そのポンプはガソリンスタンドのギアポンプなど、私どもの領域ではないものも含まれています。私どもと同じ領域では20社程度です。
 常にライバルの動向や情報は営業マンから集めさせてもらっています。

 

岩田:
 話題を次に移らせていただきます。経営していらっしゃって企業の継続は最重要な経営課題でしょう。企業の継続的発展に関して、後につながるという意味で今考えていらっしゃることはありますでしょうか。

 

社長:
 ポンプというのは基本的に、幸いなことに無くならない商品だと思います。どんなに田舎にいっても浸水対策用のポンプや下水用のポンプがあります。人口がゼロになってしまえば必要はないかもしれませんが、そんなことは起こりえないですし、私どもが市場の要求することを確実に掴んで、会社を変えていければ存続は出来るという風に思っています。
 グローバルの競争なんです。日本だけで食べていけるからこれでいいと思ってしまったらだめで、私が今中国に力を入れているのは、中国でのあれだけの人口を狙って、世界のポンプメーカの競争のるつぼだと思っています。高級高品質のメーカも中国の市場を狙っていますし、中堅の台湾や韓国なども狙っています。もちろん地場の中国メーカもどんどん台頭してきています。その中で、私どもがそれなりのシェアを持てるのは、ツルミのポンプが世界に通用する証だと思っているんです。そういう意味で、積極的に海外に出て行って戦って、勝ち続けることによって存続できるのではと考えています。

 

岩田:
 その時に、海外と一言でいってもアメリカ、ヨーロッパ、南米、アジア、アフリカなど、場所によって歴史的にも文化的にも違いがあると思います。中国のことは良く分かりましたが、ヨーロッパやアフリカはどう考えていらっしゃいますか。

 

インタビュー・シリーズ第2回 株式会社鶴見製作所 辻本社長

社長:
 私どもは、アメリカもヨーロッパも30年以上前から出ています。今一番大きな市場がアメリカで、二番目がヨーロッパです。ヨーロッパとアジアの合計が一緒くらいになっています。ヨーロッパは先進国なので技術を認めていただけるということで、それなりに高品質、高効率を求めてこられますので、私どもは既存の商品を紹介していきます。対して、アジアはそうではありません。価格オリエントの市場ですので、違った商材を持っていかなければいけません。海外展開の中では、ヨーロッパやアジアの主要な場所には現地法人を置いていますが、拡大していこうと思うと人材が一番大きいです。南アフリカに行かせていただいて、結果的には向こうに販売を依頼してきました。販売を任せる契約にサインをしてきました。というのは、治安が非常に悪いために、日本人を送り込んで、商売をする環境としてはまだまだ難しいなと。日本人はそれだけ外に出て行くということに慣れていないでしょうし、万が一社名で出て行ったといても自分の身を守るのに7割、8割の労力を使って、営業は2、3割になってしまうというところがありますので、そういった市場に対しては販売の合弁会社をつくって展開していきたいと考えています。インドネシアでも、ジャカルタはいいですが、あれだけ島が分かれていると英語も通じないところがたくさんあります。インドネシアの現地法人でも経営は現地人に全て任せています。

 

岩田:
 現地の良い人材をご自分のところの仲間として入っていただけるような仕組みが必要ではありませんか。

 

社長:
 そうですね。現地で人脈をつくっていこうということで、現地に任せる方がビジネスを拡大させる早道かなと思っています。

 

岩田:
 次の話題に入らせてください。企業の生存、成長と発展のためには利益が必要ですが、どういう風に利益設定を考えるかによって、ビジネスモデルにも違いがでてきますね。
 辻本社長が念頭に置いていらっしゃる、いわゆる原価と利益はどういう風にお決めになっているのでしょうか。

 

社長:
 うちのポンプは幸いなことに売れたら利益が出ます。工場でつくった原価に対して、営業には営業原価があります。あくまで一例ですが、工場で100円の原価のものを営業には120円が原価として、2割とっている。営業は、工場原価に自分たちの営業経費も賄った中で利益を出しなさいと儲けを設定しています。ですから、営業が利益なしで売ったとしても2割の利益が確保できるような仕組みにしています。

 

岩田:
 昔からそういった仕組みをされてきたのですか。

 

社長:
 はい。昔からです。営業原価を営業ネットといいます。基本的には、営業ネットは収益、本社間接部門経費などを考慮して決め、営業に引き渡しています。

 

岩田:
 プロフィットの設定の仕方としては、従来から同一方式でしょうか。

 

社長:
 そうですね。過去から92年間赤字というものが無いです。20年間で最低の利益は、18億5千300万円です。

 

岩田:
 簡単におっしゃるが、世の中全体から見ると、すごく大変な難しいことを実現されていらっしゃる。ポンプ分野の他社さんを見ても、ものすごく苦しんでおられるところもある。そこの違いはどのようにお考えですか。

 

社長:
 国内は、50数カ所の営業所、支店のネットワークがあります。基本的に、各都道府県にひとつずつ営業があって、例えば、緊急対応、大雨でポンプが欲しいのだが用立てしてほしい、故障したけれど営業のついでに見に来てくれないか。もちろん修理を担当するような関連会社もありますが、営業マンがビフォアー、アフターに十分対応しています。ポンプというのは、種々の緊急対応が必要であり、早くから支店や営業所のネットワークを築き、そのネットワークを維持拡大しお客様に対応しています。販売網の強さも当社にとっては大きな財産であると考えています。

 

岩田:
 良く分かります。そのために、営業ネットワークには多くの人材を配置していて、絶え間なくお客様とコンタクトしている。素晴らしいやり方だと思います。
 一方で、最近それを全て人間の力で賄おうとするとコスト的に合わないことも出てきましょう。最近はIOTという形で、動いているポンプの実稼働や運転状況、トラブル期間、どういう原因でトラブルが起こりつつあるのか、といった情報が時々刻々と本社の中枢入り、次の対応を検討することが技術的に実現できるようになってきました。このような方向も一案と思いますがいかがでしょうか。

 

インタビュー・シリーズ第2回 株式会社鶴見製作所 辻本社長

社長:
 そういったことは可能は可能です。現実問題私どももやっています。
 各家庭の下水は、下水のマンホールに集まります。圧送、圧送を繰り返して最終的に処理場までいきます。特に山間部では、人気のないようなところにマンホールがありますので、そこのポンプが故障したら大変なことです。どれくらい稼働しているのか、電流値、電圧などポンプの最低限の情報が役所さんで見られるようになっています。それによって、メンテナンスコストを下げる製品も当社で売らせていただいていますが、コストがかかります。通信費や、それなりのセンサーのコストなどがかかります。それが全てのポンプにそのようになるかは、まだ少し時期尚早かなと思います。

 

岩田:
 コストバランスやその他を総合的に考えると、今やっていらっしゃるシステムが、最もお客様にとっても企業にとってもいいということでしょうか。

 

社長:
 一番今ケアしているのは、ネット販売です。ネット販売を通じて買われる時代が来るだろうということで、ものたろうさんのように1千億企業を目指す企業さんもあります。当社もそういった企業へ商材の供給はしています。通常の販売店とネット販売がどのように推移していくかをみていかないといけないと思います。
 ただし、ネットでは買えますがメンテはなかなかできないでしょうから。

 

岩田:
 ただ単に売るだけではなくて、使っていただいて、使っている間の状況も全てフォローして、最後はリプレイスの視点が重要だと。リプレイスの割合はどの程度でしょうか。

 

社長:
 そうですね。リプレイスの売り上げは、3割ぐらいでしょうか。

 

岩田:
 リピート客の割合は如何でしょう。

 

インタビュー・シリーズ第2回 株式会社鶴見製作所 辻本社長

社長:
 多いです。日本は新しい市場がないので、リプレイス更新需要が主流になりつつあります。この更新需要を如何に確実に営業展開をするかが課題ですので、営業の方向もそれに向けつつあります。

 

岩田:
 今後、3年ぐらいの間に、あるいは長くみて5年ぐらいの間に解決したい課題はお持ちですか。

 

社長:
 やはり人材ですね。昔の人間は、企業人間ということで仕事と家庭で仕事のウェイトが大きい人が多かったですが、最近は変わってきました。そういった関係かわからないですが、例えばある部署をAくんに任せているとして、この後は誰かとの次の人間を考えた時に人材不足で少し寂しい思いがしたりします。そういったところの体系化を早くした中で、30代などの早い段階で、教育投資をしていきたいなと思っています。

 

岩田:
 人材について、特に優先的に考えたい分野を意識されていますか。

 

社長:
 差別化していきたいところでは、技術者です。ただ、純粋な技術も大切なのですが、発想力のある、なんていうのでしょう、前向きで発想力のあるような人材、そういった人でないとアイディアが出てこないと思います。うちのポンプはどちらかと言うとアイディアで面白いねとご購入いただけるところが多いものですから、純技術的な製品ではないものですから。

 

岩田:
 少し広く社会との関わりや地域、環境との関わりまで含めてトータルにアイディアを出せる技術人材ということでしょうか。

 

社長:
 そうですね、そう思います。それなりに収益力もありますので、人材投資をこれからどんどんやっていこうということで、中期3カ年経営計画の中で提案してやっています。

 

岩田:
 水中ポンプは、外見上からは見栄えの占めるウェイトは比較的少ないかと思います。要は技術的にしっかりしていて、高品質、メンテナンスフリーなどといったところが重点になりますか。

 

社長:
 そうですね。基本的に外から見えるのは、展示会で並べた時ですよね。基本的には品質が安定しているということと、耐久力があることが必要かなと思います。

 

岩田:
 ポンプの耐久力というのは、何年ぐらいなのでしょうか。

 

社長:
 役所さんでは下水道のポンプは15年です。15年の中で、オーバーホールが何回かされています。オーバーホールは、5年に1回くらいはしていると思います。ただ、通常の水で使うのであれば5年くらいまわしっぱなしでも問題無いことがほとんどですけどね。私どもはどちらかというと建設関係のハードな環境、砂や砂利が入ってくるような環境においてポンプを設計してきましたので、そういう商品を海外に持っていくと、非常に耐久力があるねと海外のお客様は特に喜んでいただいています。

 

岩田:
 悪環境の状態で使えるということが前提として入っているということですか。最近では、砂漠のようなほこりがどんどん入ってくる環境が増えていますか。

 

社長:
 ほこりは全然関係ないですね。

 

岩田:
 そうですか。

 

社長:
 他の新鋭経営会の皆さんみたいに、これがうちの技術だと大きく話ができることではないのですが、基本的には同じような品質でいかに低コストでつくるかということに、私どもはずっとトライをし続けています。

 

岩田:
 低コストといった時には、為替変動の問題や人件費や素材の変動の問題は如何ですか。

 

社長:
 そうですね。ですから、海外調達をしてみたり、またそれをやめてみたり色々なことがあります。先日の木村さんのプレゼンにもありましたように、国内で鋳物をする業者さんがどんどんいなくなっていますので、鋳物の調達は海外でせざるを得ない状況になっています。

 

岩田:
 では将来、仮に10年後として、どんな企業になっていたいというイメージをお持ちでしょうか。

 

社長:
 業績は、去年は最高の売上利益、これで3年連続最高の売り上げ利益を達成しました。ただですね、ああやっていきたい、こうやっていきたいというように思っている中のまだ3合目くらいなんです。海外でももっとネットワークをつくっていきたい、シェアを拡大したい、国内でも官庁向けではまだまだ弱いところがありますので、そういったところでもシェアを奪っていきたいと思っています。ただ、一朝一夕にしてはできないところですので、確実に時代の変化に応じた中でステップアップして、後退はしない健全な形で企業を拡大していきたいと思っています。
 この間90周年で、将来のビジョンを考えました。売上金額の思いは何もないんです。みんなが喜んで働けるような企業で、健全な形で発展していこう、みんなでよくなっていこうということで話をさせてもらいました。

 

岩田:
 健全な発展というと、企業本来のビジネスを中心にやるということですか。

 

社長:
 そうですね。ポンプ以外のことは考えていません。

 

岩田:
 金融商品に手を出そうなど、そういったことはあまり念頭に置いていらっしゃらないのですね。

 

社長:
 うちの親父がまだ社長をやっていた1989年、まだバブルの絶頂期に社長が私以下役員を全員社長室に集めました。何かなと思ったら、今日で株を全部やめるというんです。その時は財務担当といって株式担当の部長まで置いて、銀行から来てもらってやっていたのですが、急にやめると言い出しました。なぜですか、財テクやっていない会社はないですよと言ったら、「うちの本業はこれじゃないんや。うちの本業はポンプをつくって売らせていただいて、千円儲ける、一万円儲けるのが本業や。こんなあぶく銭で儲けるというのは本業ではないんや。だから一切やめる」と言うんです。

 

岩田:
 ものすごく先見というか、1989年にそれをやられたのはものすごいですね。

 

社長:
 その時はみんなその迫力に押されて、分かりましたと。経理部長が、利益の出ている株は全部売ります。ただ損をしている株も若干あるので置いておきますと言ったら、何でもいいから全部売れ。と。

 

岩田:
 すごい決断ですね。思い出しますと、実質的な意味で、1985年が日本の絶頂期でした。それ以後、あらゆる面が右肩下がりになってきましたが、まだ景気の余韻は残っており、GDPで見ると1993年に世界で瞬間的に1位になりました。1989年はその中間です。その時期に決断をされたというと、すごい卓見だったように個人的には思いますが。

 

社長:
 将来株取引がリスクがあると思ったというより、こんなことで儲けてどうするんだ、ということなんです。うちの本業はそれやということですね。本業はこれという考え方は踏襲していきたいと思っています。

 

岩田:
 3合目というお話がありましたが、10年後の夢として海外のシェアはどれくらいあればうれしいでしょうか。

 

社長:
 全世界の市場が今3500億です。去年うちは419億の売上でした。その中には、システム商品も含みますので、うちのシェアとしては10%もないと思います。できれば20%ぐらいにはしていきたいと思っています。全世界の市場規模が3500億ですから、そのまま増えないとしたら、10年後700億になれればいいなと考えています。

 

岩田:
 今後の国内外の従業員数、日本人と外国人の比率も含め、従業員問題をどのように考えていかれますか。

 

社長:
 国内は980人の社員がおります。これを増やすだけの売上利益というものは絶対上げられるはずだと考えています。10年経とうが20年経とうが、私どもが今の従業員の首を切ることなくやっていけるはず、だからその目標に向かってやっていこうとしています。だから、そんなに大きな拡大はできないと思うんです、国内は。

 

岩田:
 ひとりあたりの売り上げはどれくらいあればとお考えですか。

 

社長:
 今で4000万円くらいでしょうか。
それぐらいの売り上げはやっていこうと。例えば、大阪市は市でポンプを使っているのはどれくらいあるだろうと。何百万台とあるのではないか、それの更新需要だけでもとれれば、予算は簡単に達成できるだろう言っています。

 

岩田:
 海外はどうでしょうか。

 

社長:
 海外はこれからどんどん伸びていくと思います。新興国の経済が発展してきたら、汚水処理の需要はどんどんあると思いますので。そういう分野に入っていきたいですよね。そのためには、人脈づくり、ネットワークづくりが大事だと思います。
 また、規格の違いがありますので、私どもも色々なM&Aも考えています。

 

岩田:
 M&Aもいくつかやっていこうと思われているのでしょうか。

 

インタビュー・シリーズ第2回 株式会社鶴見製作所 辻本社長

社長:
 やっていこうと思っています。それをしないと、その国なりの仕様のポンプに改造していくには数年というレンジがかかります。ポンプの基本型式は、3000種ぐらいあります。そのうちの100種でも売っていこうとすると、それを改造する必要があります。そういう作業が多いものですから、100名もの技術者がいるんです。

 

岩田:
 最後に、社長個人の人生観、人生哲学や座右の名など教えてください。

 

社長:
 「努力」というのが一番好きなんです。何においても努力しないとうかばれない、思いが成就しないと思っています。うちの家内の実家はお寺さんなのですが、阪神淡路大震災で釣鐘が全て落ちて割れてしまいました。その時に住職に銅板を渡されて、そこに名前と、表には仏様にお願いすることを書きなさいと言われました。その時私は太い字で「努力」と書いたんです。家内安全を頼むのか、商売繁盛を頼むのかなど色々ありますが、なにをおいても自分の「努力」だろうということです。それを住職であるお父さんに書いて渡したら、治さんらしいなと苦笑されましたけどね。

 

インタビュー・シリーズ第2回 株式会社鶴見製作所 辻本社長

岩田:
 なるほど。その「努力」という言葉の中に、思いが詰まっているわけですね。

 

社長:
 そうですね。90周年の時も、私はこの会社を健全に発展させていくのは僕が生まれた使命だと思っていると言いました。使命というのは役割だと思っているかもしれないが、違うよと。命を使ってやることだから。私は今までもそうやってきたし、これからも命を使ってこの会社を守っていくからついてきて欲しいと話して締めくくりました。

 

岩田:
 これから社長になって自分の企業をつくっていこうとする後継者たち、若い人たちへの、先輩社長して何かアドバイスすること、あるいは大事な視点がありましたらお聞かせください。

 

インタビュー・シリーズ第2回 株式会社鶴見製作所 辻本社長

社長:
 起業される人は、それなりにこういうビジネスモデルで企業として拡大していこうという思いがありますので、それは独自の発想や独自の技術があるだろうと思います。私は常に、先行きは不安だらけだと思って欲しいと思うんです。どんな事業でも、ずっと明るい未来が待っているとは限らないので、先行きの見通しは常に悲観的に考えて欲しいなと思います。また、先ほどまでの話でも触れさせてもらいましたが、絶対解決できない問題といのは無い、8方がだめなら、16方、32方を見て欲しいということで、実行すれば考える道というものはあるし、深刻になる必要はないと思います。そういう楽天家で経営してほしいなという風に思います。そうでないと、しんどいですもん。私が相談するのは愛犬ですから。愛犬に「こんなことがあったんだけど、これでいい?」と聞くとうんと言ってますから。

 

岩田:
 企業の成否は、「人に始まり、人に終わる。たとえ、人工知能全盛期の時代が来ても」
 長時間、貴重なお話をいただきまして有難うございました。今後の益々のご発展を衷心より祈念いたします。

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