インタビュー・シリーズ
ーinterviewー

第7回対談:「たゆみない技術開発で、100年企業を目指す」
利昌工業株式会社 代表取締役社長 利倉 幹央 氏

岩田会長(以下、岩田):
 今回のインタビューは、本会の理事である「利昌工業(株)の利倉社長」です。このたびは、新鋭経営会「社長インタビュー」にご登場いただきまして、誠にありがとうございます。
 利倉社長が率いる「利昌工業(株)」は、「電子材料、電気絶縁材料、工業用材料、エポキシモールド電気機器などの製造・販売」を主事業とされた、グローバルニッチ企業と伺っています。とりわけ、社内に「第一研究開発センター」「第二研究開発センター」「第三研究開発センター」の3研究所を設置された、研究開発型の企業として社会から広く認知されています。国内外から高い評価と経営実績を積み重ねてこられた背景には、会長時代の先進的な取り組みも高く評価されるところですが、本日は、現社長のこの数年間の歩みをベースにお話をいただければと思います。
 まず、企業の現状について社長の視点から主要なポイントと特徴をご紹介くださいませんか? 同時に、「経営理念(ミッションや行動指針)」やその背景などについても触れてください。

 

利倉社長(以下、社長):
 我々は材料メーカで、開発重視の、いわゆる研究開発型企業です。なかでもグローバル・ニッチトップ、あるいはドメスティック・ニッチトップといった形で、ニッチトップを狙っています。ですから、会社としては規模を大きくするというよりは、バランスを取りながら経営していくということに軸足をおいています。
 企業内には、ご紹介いただきましたように、「第一研究開発センター」、「第二研究開発センター」、「第三研究開発センター」という3つの研究所をもっていますが、売上高はさほど大きくはありません。一言で言えば、多くのニッチトップ商品を、多くの企業に提供するところに特色を持った企業といえるのではないかと思います。顧客も、重電メーカから弱電メーカまで層がひろく、ある特定のユーザに売上が集中するのではなく、できる限り広く分散させています。
 また、我々は今年で創業96年となり、2021年には100周年を迎えます。この意味で会社には長年培ってきた基本的なスタンスが存在します。具体的にいいますと、一つは、リストラは可能な限り行わない、二つは可能な限り資産は売らない、三つは独立独歩で歩んでいく、ということです。従いまして、株式は100%身内で固めており、他からの資本は入っていません。100周年までは、少なくともこのスタンス、攻めというよりは「やや守りの経営」に徹してやっていく方針を持っています。

 

岩田:
 いま、ニッチトップ商品をメインにした経営のお話をいただきましたが、企業として現在、どれぐらいのニッチトップの商品数を持っておられるのでしょうか。

 

社長:
 グローバル・ニッチトップ商品は2種類、ドメスティック・ニッチトップ商品は6品目、グローバル・ニッチトップに近づきつつある商品が2種類で、合計10種類程度といったイメージです。このうち、ドメスティック・ニッチトップ商品は、従来から重電分野で手掛けていたものが多く、これは競合メーカが次第に撤退していく中でトップとなった、いわゆるラストワン的な性質に近い感じのものです。
 一方で、グローバル・ニッチトップ商品は売り上げベースでみますと、どちらかというと弱電分野です。これら商品がニッチトップの地位を築くまでには、ICカード用のガラス材の場合では、最初のスタートから見ますと、約25年程度の長い年月がかかっています。しかもこの分野は市場が成長するという相乗効果を起こしていまして、当初、我々が想定した市場規模よりも大幅に大きく育っていったと思います。

 

岩田:
 企業の業績は市場環境に伴い、かなり変動するようですが、直近は堅実な業績なようにお見受けします。「業績向上、成長」の背景にある基本的な考え方・実現への基本理念については、どのように理解すればよろしいでしょうか。

 

社長:
 我々の根源は材料開発であり、主な対象は重電分野からスタートしました。ところが、マーケットの顧客とのお付き合いの中で、重電以外の新しい用途が生まれてくることが次第に増えていきました。例えば、重電に用いていた絶縁材料のパイプがフィルムやガラスなどの「巻き芯」として利用されたのです。(この実物のイメージは是非、パンフレットなどをご参照ください。)巻き芯に要求される仕様は機械的な強度で、材料自体への要求仕様が変化してしまうことがでてきます。また、異なった事例では、ある材料が薬品・メディカル分野や医療分野に転用された場合もあります。
 ですから、お客様の要望にはできる限り応えるように、研究所も体制をとっています。
とくに、自分たちの技術や設備など経営資源が利用できる、いわゆるシナジー効果が期待できる場合には積極的にチャレンジすることになります。
 この他、新材料開発についても少しずつ進めているところです。

 

岩田:
 企業業績を向上させている主な理由には「技術開発」があるようですが、「技術開発」における基本的な考え方、例えば、①開発課題の選定、②課題に取り組む社内の体制や社外との連携、③事業化への仕組み、などについてご紹介いただけませんか。それらの実行段階における経営者の関わりも含めてお話しいただければと思います。

 

社長:
 開発課題については、従来は経営サイドから課題を投げかけることが多かったのですが、最近は、開発の領域が多様化してきましたこともあって、自社の研究所サイドから積極的に課題を経営陣に提案する、逆な見方で言いますと、経営陣が提案を多く求め、吸収する方向へ舵を切り始めました。具体的には、従来は第一研究開発センター、第二研究開発センター、第三研究開発センターのそれぞれが独立して研究を進めていました。今後は、開発本部棟を新設しましたので、ここに3つの研究所の所員が一同に会しコミュニケーションを図り、互いのアイデアを深められるようにしています。
この際、テーマは販売可能性やお客様の経営面でのプラスまでを包含した検討を求めています。
 次に、自社以外の開発資源との協力や協調に関しましては、従来から積極的なスタンスです。産官学プロジェクトへの参加や産学共同研究も手掛けています。今後もこの類の外部との共同は積極的に進めていきたいと思っています。
 しかし、3番目の企業間連携は少し異なります。まず、M&Aは従来から経験がなく、今後も考えていません。一方、企業間の共同開発は経験をもっています。それは国内の大企業との共同開発でしたが、大企業の自社を見る目はイコール・パートナーという意識が乏しく、「使ってやる」というエゴが表面化しました。利益を重視する企業間の共同は非常に丁寧な契約と相互理解がないと成果に結びつけることは難しいのではないか、これが率直な感想です。他方で、非常に成果を収め、外部資源の取り組みに重要と考えているのが、海外技術の導入です。経営陣が広く海外を歩き、レベルを確認し、導入することは自社の財産となっています。海外主要研究機関や大学と広く人的ネットワークを築いてきましたが、これからも海外調査と優れた技術の導入や吸収には目を向けていきたいと思っているところです。

 

岩田:
 技術開発で得られた成果を販売に結付けることは経営上の重点事項であることは言うまでもありませんが、この結びつけについて何かお考えはありましょうか。

 

社長:
 技術開発先行型か、マーケットニーズ先行型かの関係という点で少し経験を述べてみます。マーケットニーズは、自社では、これまで営業が持ち帰ってきました。このニーズは顧客企業一社の要望であることが多く、テーマとしては相対的にみると小粒な感じです。開発すると確かにニーズを出した企業には売れるのですが、この一社以外に販路が広がることが少ないのです。ですから、開発テーマは企業共通の課題を如何に抽出できるかが重要と思います。この仕事は我々では研究所の役割です。その場合、自社の設備や資産も含めて検討することにしています。
 研究所の研究開発者は、お客様のところに出かけて、共通の課題を選定しなければなりません。研究所に閉じこもっている研究者は中堅企業には適していないと思います。
ですから、採用の面接のときに、必ず確認して了解が得られた人のみを採用します。
「研究所で四六時中、研究に没頭することはできません。お客様との深いコミュニケーションを行うため、多くの企業の方々に会うことや現場にいくこと、また自分が研究・開発した成果を事業化する責任者になることも出てきますが、如何ですか」と。現実に研究者には社外に出かける自由時間制度を設けています。自由なだけではなく、一定の時間はお客様に接触しなければなりません。
 「共通的ニーズの高いテーマ」を研究・開発して、ビジネスへ直結させる、そして経営成果に反映させたいというのが、私の基本的な考え方といえます。では具体的に私がどのように関わっているかですが、まずは、種々の提案や意見をできる限り多く行ってもらい、それらの課題が販売ルートに乗るか、既存の設備や資源が利用可能か、といった経営面・管理面の判断と意思決定を行います。いったん決定したのちは、特に技術開発面は担当役員がかじ取りを行ないます。知恵を集め、判断し、実行するための仕組みづくりに特に責任をもっています。

 

岩田:
 企業は継続することが最重要な経営課題でしょう。企業レベル、事業レベルからみて、継続するために、現在どのようなことを重点的に考えておられ、実行されていますか。重要と考えておられる経営課題をご紹介くださいませんか。

 

社長:
 経営課題は多くありますが、最重要ものとしては、次の二つでしょうか。
 まず、第一は、現在の商品ライフサイクルに合わせて、次の新商品を開発するあり方に関してです。仕組みづくりも含めてです。現在、絶え間ない成長がつづけられるような枠組みを、全社的かつ総合的な視点から、鋭意取り組んでいますが、永遠のテーマと覚悟しているところです。
 二つ目は、直近の問題で、定年を迎えるかたが増加しているという現実です。ご紹介しましたように、わが社は基本的にリストラをしておりませんので、60歳前後の社員が多くいます。とくに、営業と管理部門は高齢者がここしばらく多く退職あるいは嘱託になる状態です。若い人はある程度いますが、中間の年齢層が薄く、年齢分布のひずみが気がかりです。退職者のかたが嘱託で残る場合、役職が外れ、給料も下がります。このことによる本人のモチベーションの低下や、逆に今まで部下であった若い人が役職になりますと、若い人が先輩への遠慮から管理上のストレスを発生させないかという精神面の問題に対してです。どこまで、スムースに組織の運営を継続させるか、良い人間関係を築いていけるか社長として、十二分に配慮していかねばと思っています。
 
 

岩田:
 日々の経営のかじ取りの中で、社長として、最近、特に、嬉しかったことや心のときめきを感じたことはありましたでしょうか。あれば、ご披露いただければと思います。

 

社長:
 今振り返って、思いだすという意味ですが、ITバブル崩壊後の業績悪化の時のことです。当時、我々は、無我夢中で回復に向け、頑張り続けました。悪化の状態から脱皮した時、企業は一皮むけたように再成長に向かっていました。何ともいえぬ,感慨でしょうか。喜びでしょうか。思いだすことがあります。

 

岩田:
 企業として解決困難な問題に直面したことはありましたでしょうか。ありましたら、問題克服への考え方,方策、決断、行動などをご紹介くださいませんか?

 

社長:
 企業の業績は景気の波に影響されて不況に陥るときがあります。いえ、必ず波の底がやってくるものだと思います。不況に遭遇した時、どうするかを考えるのは当然ですが、大事なのは成長時、好調時から対策を長期的に立てておくこと、これが克服への王道かと思います。具体的には,我々装置メーカの場合には、好調時に保守やメインナンスは行う。また若干の宣伝広告や人の問題などでも遊びを残す。余裕・余禄を残しておくべきです。いったん、不況になったときは、宣伝や広告の廃止、時には鉛筆の一本まで始末をするといった、メリハリをつける企業文化。この決断が生存していく上で重要かと考えています。

 

岩田:
 企業は継続と生存のために、安定的に収益を得る仕組みづくりを考えることが不可欠ですね。今後の新規事業に関して、現在、どのようなスタンスで取り組んでいますか。また、どのような考え方と方法で売り上げと収益を得るように工夫されていますか。

 

社長:
 新規事業と言いますと、従来培っているコア技術、特に、積層技術と注型技術ですが、これらを基礎にして、新規事業分野を開拓していきたいと考えています。新分野の候補は、成長が見込める分野で、例えば、医療、車載、航空機といったところです。
 従来のコア技術とは別に、新規のコア技術開拓も願いとしてもっていますが、まだ目に見える形には育っていません。

 

岩田:
 企業生存とも絡みますが、将来に対してどのようなイメージを持っておられますか。中期計画は作成されておられますか。

 

社長:
 まず、中期計画はもっておりませんが、2021年に100年を迎えることからその節目に対する計画、我々は2.26計画と呼んでいる計画があります。最初の2は売上高が連結で200億円、経常利益率10%の20億円、従業員数が正社員で500名+アルファ。アルファは派遣やパートなどです。過去の最高売上高が約180億円でしたから、少なくともこのピーク値は超えたいという願望です。
 販売の国内・海外比率は現在7対3ですが、これからは海外比率を増やすこと、およびアメリカに駐在事務所を設けられればと考えているところです。従来、アメリカの販売がやや遅れていたことをカバーしようという気持ちの表れです。これに対してアジア、ヨーロッパでは、すでに駐在事務所や拠点の整備が終わっています。

 

岩田:
 社長個人の人生観や人生哲学をお聞かせください。
 座右の銘はお持ちでしょうか。座右の図書はありましょうか。

 

社長:
 年齢を重ねるにつれて、少しずつ人生観は変わってきているように思いますが、いま念頭にありますので、「一つを得れば、一つを失う」という感じです。なぜこのように感じるのかは明確ではありませんが、家庭を持ち、子供が生まれた環境の変化から生まれたのかも知れません。
 好きな著者は司馬遼太郎。彼の多くの本は読んでいますが、登場人物に共感を覚えるものがあります。
 ビジネスの場で、外国人と会うことがあるのですが、文化的な面で違和感を感じることが少なくなく、自分が日本人であるというアイデンティティを意識することがしばしばです。

 

岩田:
 今後、社長を目指す人々へのメッセージは如何でしょう。
 後継者にもとめられる社長の素養について何が重要でしょう。ご意見をお聞かせください。

 

社長:
 今の気持ちを一言で言えば、「歴史は繰り返す」、「過去を知ることは極めて大切」ということでしょうか。過去を知ることは未来を知るうえで疑似体験をすることに似ています。その意味で、是非、歴史書を読んでいただくのがよいのではなかと思いますよ。
また、現代の世の中も刻々と流れています。この流れをつかむには新聞を読むのがよろしいと思っています。それも深く掘り下げて考えながら。
 判断にあたって私自身は、「シンプルに考える」ように努めています。たとえば、このことは社会に善を齎すか、あるいは悪をもたらすか。会社であれば、会社という組織にとって善なのか、あるいは悪なのか、といった具合です。もちろん簡単に結論はでないのが一般的ですが、最終的にgoかstopかの判断を迫られたとき、何を基準に決断するか、その問いかけを自分に課すようにしています。

 

岩田:
 長時間、貴重なお話をいただきまして有難うございました。企業の変動の波も克服し、基本的には成長の歩みを続けられ、あと4年で100年企業という節目の時が近づいています。どうか、100年計画が実現され、社長のリーダーシップのもと、次の100年が始まることを祈念しています。

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